適材適所。もとは、木の話でした。

適材適所——木は、どこまで手を入れられたか

適材適所の「材」は、人材ではありません。
木材です。
木造建築で樹種を使い分けることを表した言葉が、のちに人の配置を指す意味へ転じました。
いま木材のまわりには、無垢材、集成材、熱処理木材、アセチル化木材、高温乾燥材と、多くの選択肢があります。
当社は、そのどれかを「本物の木ではない」と外しません。
逆に「これさえ使えば安心」とも申しません。
どれも、置く場所によって長所にも短所にもなる。
それが、この言葉のもとの意味だと考えます。

一 「材」は、人材ではありません

土台には腐りにくく耐久性の高い檜や栗を。
柱には木目の整った材を。
梁にはねばりのある材を。
日本の伝統建築が積み重ねてきた木の使い分けが、この四字熟語の出どころです。
会議室で使われるようになって久しい言葉ですが、もとは現場の言葉でした。
当社はこの言葉を、木に返したいと思っています。
 

二 「木らしさ」は、ひとつではありません

木を選ぶ話がこじれるのは、たいてい「木らしさ」をひとつだと思い込んでいるからです。
湿気を吸って吐くこと。
季節で動くこと。
削れば新しい面が出てくること。
燃やせば熱になって灰に戻ること。
一本ごとに顔が違うこと。
年月で色が深くなること。
これらはすべて木らしさで、そして——同時には成り立たないものが混ざっています。
木に手を入れるとは、このうちのどれかを差し出して、別の何かを受け取る取引です。
熱を入れれば動かなくなりますが、色が変わります。
貼り合わせれば大断面が取れますが、一本ごとの顔は消えます。
化学的に手を入れれば腐らなくなりますが、呼吸しなくなります。
ですから当社が伺うのは「これは木材ですか」ではありません。
この材は、何を差し出して、何を受け取ったのか。
 

三 材を読む、四つの軸

材の名前を覚えても、次に新しい材が出てきたときに使えません。
軸で見れば、ここに挙げていない材もご自分で置けます。

軸一 何を足したか。

熱だけを加えたのか。
化学結合そのものを変えたのか。
木ではない別のもの——接着剤など——を足したのか。
それとも水を抜いただけで、何も足していないのか。
足したものが多いほど悪い、という話ではありません。
足したものが何かを知っていれば、どこで効いて、どこで裏目に出るかが読めます。

軸二 戻るか、固定されたか。

いちばん誤解の多い軸です。
木の細胞壁を固めているリグニンは、水を含んだ状態では熱で軟らかくなります。
森林総合研究所が41樹種87個体を測った結果、飽水状態での軟化温度は針葉樹で85〜95℃、シリンギル核の比率が高い広葉樹で70〜80℃でした(2024年)。
軟らかくなったところで形を変え、そのまま乾かすと、その形で止まります。
これをドライングセットといい、曲げ木と同じ原理です。
ところが、この「止まった」状態には二つの段階があります。
軟化させて乾かしただけの木は、再び水分と熱を加えると、肉眼的に無傷で、ほぼ元の状態まで復元します
木材は一種の記憶材料である、と表現される所以です。
これは「固めた」のではなく「押さえ込んだ」状態です。
変形を本当に固定するには、乾熱なら180℃で約20時間、200℃で約5時間といった条件が要ります(高圧水蒸気を使えば、もっと短時間で済みます)。
ここまで来ると、木は思い出しません。
一般的な高温乾燥(120℃前後)は押さえ込みに当たります。
熱処理木材(180〜240℃)やアセチル化木材は、固定の側にあります。
押さえ込みなのか、固定なのか。
この境目をご存じかどうかで、材の読み方が変わります。

軸三 削って、直せるか。

削り直せる材は、傷や汚れがついても終わりではありません。
三十年後に、もう一度きれいにできます。
削り直せない材は、傷がついたら交換になります。
これは性能の優劣ではなく、時間との付き合い方の違いです。
二十年で更新する前提の建物なら、削れないことは欠点ではありません。八十年使う前提なら、削れることは決定的な資産になります。
床でいえば、こうなります。

床材の種類 表面の無垢層 研磨
無垢フローリング 全部 可。厚みと研磨歴によりますが2〜3回が目安
挽板フローリング おおむね2mm以上 可。1〜2回程度
突板フローリング 1mm未満のものが多い 不可
シートフローリング なし 不可

一回の研磨で削る厚みは、おおむね0.3〜1.0mm。削り代が3mmあれば数回は再生できる計算です。ただし過去に研磨した履歴があると、釘頭が出て削れないこともありますので、現物の確認が要ります。
床リノベ

軸四 揃っているか、一本ごとに違うか。

均質であることは、設計する側にとって大きな価値です。
計算できる、発注できる、あとから同じものが手に入る。
それを求めて集成材を選ぶのは、まったく正しい判断です。
一方、一本ごとに違うということは、その材に来歴が乗るということでもあります。
どこの山の、どんな木だったかを語れる。それが要る場面と、要らない場面があります。
 

五つ目の軸

どう終わるか——燃やせるか、土に還るか、産業廃棄物になるか。
この軸については、当社はすでに別の場所で五つの問いとして書いています。
解けるか。
分けられるか。
行き先があるか。
還るか。
継げるか。
始末の物差し——五つの問い(会社概要)
使っているあいだを測るのが、この頁の四つの軸。
終わり方を測るのが、あちらの五つの問いです。
 

四 五つの材を、軸に置く

以下は一般名で書いています。
個々の製品の性能は各メーカーの技術資料が正で、ここに書いたのは読み方の枠です。

差し出したもの 受け取ったもの 主な居場所
無垢材(天然乾燥) 寸法精度・工期・均質性 削り直せる/呼吸する/一本ごとの顔 現し・造作・床・一枚板
高温乾燥材 削り直しの自由度 割れない表面・短い工期・安定供給 壁の中に隠れる構造材
熱処理木材 強度とねばり・もとの色 屋外での耐久・高い寸法安定 外装・ルーバー・軒天・デッキ
アセチル化木材 調湿性・産地の近さ 極めて高い耐久と寸法安定 水回り・木製サッシ・桟橋
集成材 一本ごとの個体性 大断面・長スパン・計算できる均質さ 構造・大スパン

無垢材とは。

何も足していない材です。
水を抜いただけですから、動きます。
季節で幅が変わり、隙間が出たり詰まったりします。
そのかわり、削れば戻ります。
呼吸します。
燃やせます。
一本ごとに顔が違います。
現しの柱、造作、床、一枚板のように、人が触れる場所と、直しながら長く使う場所に向きます。
逆に、寸法精度が命の大断面や、短工期の現場では苦労します。
河内・石川流域材
 

高温乾燥材とは。

120℃前後の高温で表層を軟らかくし、一気に乾かした材です。
表面が割れないので見た目のクレームが出ず、工期も読めます。
いま流通している構造材の多くがこれです。
ただし、この処理で得られるのは前述の押さえ込みであって、固定ではありません。
また、乾燥スケジュール次第では、表面から見えない内部割れが生じることがあります。
ある調査では、高温セット処理をした杉の心持ち正角の断面画像978枚から、約1万7千本の内部割れが確認されています。
大きな割れは、断面の対角線あたりに集まる傾向があります。
適切なスケジュールで乾かされた材であれば強度の低下はないとされ、実際にそう管理されている工場は多くあります。
一方、内部割れが多く出た場合は、せん断強度が下がる可能性が指摘されています。
大事なのはここです。
これは欠陥ではなく、目的に合わせた設計です。
壁の中に隠れて、組んだあと二度と削られない構造材のために作られた技術ですから、その用途では合理的に働いています。
問題が出るとすれば、後から挽いたり、削ったり、磨いたりする使い方をしたときです。
現し、造作、床。
当社の仕事の多くは、そちら側にあります。
 

熱処理木材(サーモウッド等)とは。

水蒸気雰囲気のなか、180〜240℃で処理した材です。
ここまで温度を上げると固定の領域に入りますので、戻りません。
平衡含水率が下がり、収縮が減り、腐りにくくなります。薬剤は使いません。
そのかわり、強度とねばりが落ちます。
フィンランドの規格では、曲げ強度が大きく劣化しない温度域を推奨したうえで、処理温度によって二つのクラスに分けています。
構造材には基本的に向きません。
色も濃い褐色に変わります。
それを味と見るか、失われたものと見るかは、用途によります。
屋外のルーバー、軒天、デッキ、水がかりの部位。
そこがこの材の場所です。
 

アセチル化木材(アコヤ等)とは。

無水酢酸を使い、木の細胞壁にある水酸基(-OH/水を吸う部位)をアセチル基(-COCH₃/水を吸わない部位)に置き換えた材です。
分子そのものが変わっていますので、これも戻りません。
芯まで均一に処理されるため、削っても性能が続きます。
屋外や水回りで長く持ちます。塗装ものりやすい材です。
そのかわり、メーカーの技術資料自身がこう書いています。
調湿性に乏しく、酢酸のにおいを帯びる、と。
正直な記述だと思います。
当社はここを重く見ています。
木の呼吸を差し出して、耐久を受け取った材だからです。
木の調湿性を期待する内装には向きません。
逆に、屋外や水回りでは、その欠点はほとんど問題になりません。
なお、金物の選定など施工上の注意事項は製品ごとに定められています。必ず各社の技術資料をご確認ください。
 

集成材とは。

ひき板(ラミナ)を、繊維方向をそろえて貼り合わせた材です。
節や割れといった欠点を除きながら組みますので、一本の丸太では取れない大断面と長スパンが取れます。
品質が揃い、強度が計算できます。
そのかわり、接着剤という木ではないものが入ります。
一本ごとの個体性も、性質上、消えます。
削り直しについては誤解されやすいので、正確に書きます。
構造用集成材のラミナは実務上30mm前後の厚みがありますので、数mm削ること自体は可能です。
ただし削りムラが出ると、接着層のラインが表に現れます。
また表面に薄い化粧材を貼った製品では、その化粧層の厚みが上限になります。
大スパンの梁、大断面の柱、寸法精度と再現性が要る場所。
そこが集成材の場所です。
 

五 場所から、逆に引く

材から入るのではなく、場所から入ると、こうなります。

使う場所 第一候補 気をつけたいもの
壁の中の構造材 高温乾燥材・集成材
大スパンの梁・大断面 集成材 無垢材(寸法と供給の面で難しい)
現し・造作 無垢材 後から削る前提なら高温乾燥材は要注意
床(直しながら長く使う) 無垢材・挽板 突板・シートは研磨できない
屋外・外装・デッキ 熱処理木材・アセチル化木材 無処理の無垢材
水回り・木製サッシ アセチル化木材
調湿を期待する内装 無垢材 アセチル化木材(調湿性に乏しい)

六 当社が扱うものの、弱点について

会社概要に、自らに禁じることを書いています。同じ作法で、扱っているものの短所も書いておきます。書かなければ、この頁はただの商品説明になります。
熱処理木材を扱っています。
構造材には向きません。
色は濃くなります。
無垢材を挽いています。
動きます。
季節で隙間が出ます。
工期がかかります。
同じものを二度は出せません。
床の研磨と再塗装をしています。
削れる材にしか使えません。
突板やシートの床では、手の出しようがありません。
 
これらを承知したうえで、それでも合う場所があります。
合わない場所には、合う材をお薦めします。
集成材が正解の現場では、集成材をお薦めします。
会社概要にこう書いたとおりです——当社は無垢を挽く会社ですが、無垢を善とは言いません。

七 よくある質問

適材適所の「材」は木材なのですか。

はい。木造建築で樹種を使い分けることを指した言葉が語源で、のちに人材配置の意味に転じました。

無垢材と集成材は、どちらが優れていますか。

優劣ではなく用途で決まります。削り直しと個体性が要る場所(現し・造作・床)は無垢材、大断面と寸法の再現性が要る場所(大スパンの梁など)は集成材が向きます。

高温乾燥材は使わないほうがよいのですか。

そんなことはありません。壁の中に隠れて二度と削らない構造材のために設計された技術で、その用途では合理的に働きます。ただし、後から挽く・削る・磨く使い方とは相性がよくありません。

内部割れがあると、強度は落ちますか。

適切な乾燥スケジュールの材であれば強度低下はないとされます。一方、内部割れが多く発生した場合は、せん断強度が下がる可能性が指摘されています。表面からは判定できませんので、用途に応じた確認が要ります。

熱処理木材(サーモウッド)を構造材に使えますか。

基本的に向きません。高温処理により強度とねばりが低下するためで、フィンランドの規格でも処理温度によってクラスを分けています。屋外の外装材やデッキが主な用途です。

アセチル化木材(アコヤ)に欠点はありますか。

メーカーの技術資料に、調湿性に乏しいこと、酢酸のにおいを帯びることが明記されています。屋外や水回りではほとんど問題になりませんが、木の調湿性を期待する内装には向きません。

無垢フローリングは、何回まで研磨できますか。

一回に削る厚みはおおむね0.3〜1.0mmで、材の厚みと過去の研磨歴によりますが2〜3回が目安です。挽板フローリング(表面の無垢層2mm以上)でも1〜2回程度。突板・シートは研磨できません。

どの材を選べばよいか分かりません。

材の知識が足りないからではなく、その場所で何が起きるかが、まだ言葉になっていないことがほとんどです。水がかかるか、素足で触るか、何年使うか、十年後に直す前提か。そこが決まれば、材はだいたい決まります。ご相談ください。

八 この頁の使い方

これは判断軸であって、判定ではありません。
ここに書いたのは、材を読むための枠組みです。
個々の製品の性能値、施工上の注意、保証の範囲は、必ず各メーカーの技術資料をご確認のうえ、設計者のご判断で決めていただきますようお願いします。
また、分からないことは分からないと書きました。
木の性質には、まだ研究の途上にあるものも、条件によって結果が割れるものもあります。
断定できないことを断定するほうが危ういと考えています。

出典

  • 適材適所の語源(木造建築における木材の使い分け)
  • 森林総合研究所「41樹種の木材が軟化する温度、リグニン構造に関連」2024年7月18日
  • 徳本守彦「木材の加工とセット」長野県林業総合センター 技術情報 No.134(2009年3月)
  • 高温セット処理スギ心持ち正角の内部割れに関する研究(横断面画像978枚からの抽出調査)
  • 三重県林業研究所・大分県農林水産研究指導センター林業研究部ほか、高温乾燥と内部割れに関する報告
  • 製材の日本農林規格(乾燥材の含水率基準:構造用15・20・25%、造作用15・18%、下地用15・20%)
  • 集成材の日本農林規格
  • フィンランド・サーモウッド協会の強度区分に関する資料、日本木材保存協会『木材保存』掲載のサーモウッド処理解説
  • アセチル化木材の技術資料
  • 床研磨に関する各社施工資料

※数値・条件は出典時点のものです。製品仕様は各メーカーの最新資料をご確認ください。

 
 

木のこと、床のこと。まずはお電話で。

材選びが難しくなるのは、材の知識が足りないからではありません。
その場所で何が起きるかが、まだ言葉になっていないから——ということが、ほとんどです。
水がかかるのか。
人が素足で触るのか。
何年使うつもりなのか。
十年後に直す前提があるのか、それとも更新するのか。誰が見るのか。
そこが決まれば、材はだいたい決まります。
当社は木を挽く会社であり、床を削って直す会社でもあります。
作れる立場から選びますので、選択に体重が乗ります。
組み合わせのご相談から承ります。
 
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