まっすぐに挽かない
この仕事のいちばん奥にあるのは、鋸を入れる前に木口を見て、線を引くところだ。
その線が、一本の値段と、使われる年数を決める。決め方を書いておく。
丸みを残す
解体で外された古材を預かった。もとは十二センチ角ほど。
九センチ角に挽くと、削り代は片側一・五センチしかない。
古材は反り、ねじれている。端から端まで一本の線で通せば、鋸の当たった面と、旧い表面が残る面が、同じ材の中に混じる。場所によっては九センチを下回る。
ふつう、ここは詫びる場所だ。
詫びない。
丸みや旧い面が残るのは、元の材を使い切った印だからだ。
角を四面通そうとすれば、外側を大きく落とすしかない。
落ちた分は背板になって、木材ではなくなる。
目指すのは見た目の均一ではなく、組んだときに通りと水平が出ること。
断っているのは精度ではない。
精度の一律な要求だ。
構造に効くところは、精度で挽く。
同じ丸太から、三十センチ角か、二十四センチ角か
末口三十四センチの同じ一本。角を四面きれいに通すなら、丸太に収まる正方形の限界は二十四センチ角までだ。四隅の丸みを許せば、三十センチ角が取れる。木口の断面で、およそ一・四倍になる。外へ出る三日月は、右のほうが四つとも太い。
丸みを消すというのは、木を削ることではない。
内側へ小さく取り直すことだ。どこまで許すかを決めているのは、材の性質ではなく、受け取る側の要求である。
この一・四倍は木口の断面で計った数字で、歩留まりそのものではない。長さ、テーパー、挽き代を入れれば下がる。
天井の上と、天井の下
江戸の家の断面には、天井が一枚入っている。
天井の下に使われているのは無節の最高級材で、一本の丸太からごく僅かしか取れないが、僅かで大きな売上になる。
天井の上、屋根裏に回ると、まっすぐな材は一つもない。
曲がりも丸みもそのまま使って、資源を使い切っている。
一枚の面を挟んで、値の歩留まりと量の歩留まりが両立していた。
上を取れば下が残るのは物理だから、天井裏という受け皿があってはじめて、天井下の贅沢が成立する。
いま歩留まりが落ちているのは、和室の造作が消えたからだけではない。
贅沢を支えていた無名の受け皿が、先に消えた。
屋根裏には合板と断熱材が入り、隠れる場所には規格材が入る。
曲がった材が使えなくなったのは、壁が乾いた工法になって、曲線に合わせられなくなったからだ。
歩留まりは、山の値段だ
製材所の勘定は単純である。
売れた製品から人の給料と機械の支払いを引いた残りが、翌月の丸太の仕入れに回る。
歩留まりが落ちても、固定費は落ちない。
だから落ちた分は、そのまま原木を買う力から引かれる。
削りきれなかった分は、原木の買値として上流へ行く。
挽いている手の中に、山の実入りが入っている。
木取りは技術ではなく、値付けだと考えている。
断る
うちからは出せません。
この用途なら、あの材が正解です。——そう言えるのは、材が分かっている者だけだ。
売れるものを売らない判断は、目利きの裏側にしかない。
入口も断る。
行き先を書けない材は、期限を決めて預かるか、引き取らない。
断らない土場は、いつか墓場になる。
日付と、名前
寝かせた木と、放置した木は、外から見れば同じ姿をしている。
分けているのは、書いてあるかどうかだけだ。
だから日付を書く。
体積を増やすのではなく、木が使われる時間を伸ばす。
床を貼り替えずに研いで甦らせるのも、解体材を素材に戻すのも、同じ一つのことをしている。
納める材には来歴書を付ける。
産地、伐った日、乾かし方、挽き方、還るところと還らないところ、手入れの仕方。
立米ではなく、来歴で。
名前のない木は、始末をつけようがない木だからだ。
判断に、値をつける
挽く手間には、昔から値札がある。
乾かす日数にも、運ぶ距離にもある。
木取りの判断には、なかった。
どこに線を引けばこの一本がいちばん高く、いちばん長く使われるか。
その読みは材の値段に溶けて、無料で付いてきた。
だから役務の料金表を作った。
日額と経費率が表になっている。
値段は表で決まっているから、相手の顔色で動かない。
判断を無料で配るのを、やめた。
書いておくことが三つある。
うちの商品は、床も什器も一枚板も来歴も、どれも見える面の側にある。
量の歩留まりの受け皿は、まだ持てていない。
育林の費用まで含めて木材の原価を書いた紙も、一枚もない。
国の育林費調査は四半世紀前で止まっていて、業界も行政も、この値段が赤字かどうかを言えない。
そして床を研げば、塗膜を含んだ粉が出る。あれは土に還らない。
物差しは、人に向ける前に自分の集塵袋に向く。
断るには、材が分かっていないといけない。
分かるまでには時間がかかる。
だから、静かになる。
有限会社田中製材所
1893年(明治26年)創業 1957年(昭和32年)法人化
〒583-0861 大阪府羽曳野市西浦3-2-25
Tanaka Sawmill Ltd.
2026年8月 記。
原価の紙が一枚書けたら、この頁は書き替える。
天井を境に木取りの方針が分かれていたという読み、および歩留まりが原木の買値に効く筋道は、網野禎昭氏(法政大学)の講演に学んだ。
『住宅建築』講演会「バウマイスターの家から考える林業と木造」、MOCTIONセミナー「山に利益を返す建築」(2021年)。「山は在庫倉庫なのに在庫リストがない」という指摘は腰原幹雄氏(東京大学)の発言による。
いずれも当方の要約であり、発言そのものではない。
読み違いがあれば当方の責任である。